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コラム
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1月 26, 2024

司法の世界におけるIT化の現状:弁護士の視点からの戦略と挑戦

 これまで政務活動費について書いてきましたが、議会のデジタル化という観点で、参考として、私たち弁護士の世界でのデジタル化の状況について説明したいと思います。

司法の世界のIT化は遅れている

 裁判を行うにあたっては、裁判所に訴状、答弁書、準備書面、証拠等の書類を提出する必要があります。その場合、裁判所に書類を提出する方法としては、実際に裁判所に持っていくか、郵送するか、ファックスで送るかのいずれの方法によらなければならないことになっていました。

 実際、文書の分量が大きい場合、細かい文字や図面などがある場合、カラーの写真などの場合には、ファックスで送ることが出来ませんので、裁判所に持っていくか、郵送する場合が多いです。

裁判所や弁護士のIT化に対する抵抗感

 弁護士業界はファックスを非常に多用する業界であり、少し前までは、メールをほとんど使用しないという弁護士もいたほどです。

 裁判所は特にネットやメールに対する抵抗感が強く、頑なに、メールでのやりとりを拒否し、データが必要な場合にはUSBを持ってくるようにと指示されていました。これは、裁判所が重要な機密情報ばかりを取り扱っているため、ウイルス感染や情報漏洩について非常に強い危機感を持っていたためだと思います。

 また、弁護士の中には、裁判のIT化は、憲法が保障している裁判を受ける権利や裁判の公開の原則に違反するおそれがあるという意見があったり、弁護士自身がITに得意でない人も少なくないことから、弁護士側の抵抗感も少なくなかったということもあります。

 実際問題としても、裁判は、民事訴訟法や刑事訴訟法という厳格な法律のルールに従って運用しなければならないので、裁判をIT化するには法律を改正しなければならない事情があります。

新型コロナウイルスを契機としたIT化の波

 ただ、さすがに、弁護士や裁判所においても、IT化を進めなければならないという風潮があり、さらに、新型コロナウイルスの蔓延をきっかけとして、一気にIT化が進んだという印象があります。

 新型コロナウイスルがまん延し始め、緊急事態宣言などが発令されていた頃、裁判所は、予定されていた裁判の期日のほとんどを取り消して延期とし、裁判が全く開かれないという状況になったことがありました。

 裁判官は、基本的に裁判官室に集まって執務をしているので、もし、裁判官が新型コロナウイルスに罹患してしまうと、全ての裁判官が裁判所に出勤することができなくなり、裁判を実施することが不可能になってしまうのではないかという恐れから、上記のような措置を執ったと思われます。

 しかし、当然のことですが、裁判の予定が取り消されて延期となってしまうことは、社会生活に著しい影響を及ぼしますし、刑事裁判などでは、逮捕勾留されて身柄を拘束されている人が裁判がなされるのを待っているのですが、裁判が行われなかったら、そのような不安定な状態が長く継続してしまうということになってしまいます。

 裁判所のこのような措置については、弁護士からの強い反発があり、社会的にも批判にさらされることとなりました。

 新型コロナウイルスが蔓延する前から、裁判所のIT化は徐々に進んでいっており、マイクロソフトのチームズの使用もなされつつありましたが、これ以降、裁判所は実際に法廷や会議室に集まることなく、裁判手続きを進められるということで、積極的にチームズを利用してのWeb会議が頻繁になされるようになりました。

 実際に、Web会議で裁判手続きをしてみると、使い方も簡単であり、画面共有や簡単なメッセージのやりとりもしやすく、思った以上に使いやすいのではないかという認識が裁判官や弁護士に間で広がっています。

 それまで、わざわざ、裁判所に行かねばならなかったところが、法律事務所にいながら裁判手続きを進めることが出来るので、弁護士としても、時間の節約ができるようなり、一度、このように楽をしてしまうと、裁判所に行くのが面倒という意識にまでなっているように思います。

司法の世界でもIT化が加速

 裁判所のIT化は、現在も着々と進んでおり、裁判関係の書類の提出も裁判所のシステムを使って、Webで提出できるようになる予定です。

 裁判所に限らず、行政関係は法律の規制や過去のやり方を踏襲するという意識が強いため、なかなか、IT化が進みにくいところだと思いますが、逆に、IT化が進み出すと、非常に速いスピードで進んでいくものだと実感しています。

 政務活動費の関係のことについても、まだまだ、IT化が進んでいないという話を聞いていますが、今後、IT化は避けては通れないことだと思いますし、一度、その利便性を体験すると、一気に、IT化が進むということになるのではないかと思います。