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コラム
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10月 16, 2023

「政務活動費返還請求訴訟」の舞台裏:弁護士の視点からの戦略と挑戦

弁護士の限られた役割と挑戦

 私が政務活動費のことに関わるのは、市民オンブズマンから、政務活動費返還請求訴訟が提起された後のことに限られます。そして、市民オンブズマンが問題だと指摘した費目を検討することにとどまります。

 議会事務局の方々は、地方議員の方々からの政務活動費の請求の相談に乗っておられたり、あらゆる費目について、政務活動費として充当できるかどうかということを日常的に検討したり、取り扱っておられることと思います。

 そのようなことからすれば、私が多数の政務活動費返還請求訴訟に関わっているとしても、日常的に専門的に政務活動費に関わっている議会事務局の方々よりも、私の方が政務活動費についての知識は乏しいのではないか、そのような私が、このような記事を書くのは、おこがましいのではないかという思いがあるのは正直なところです。

裁判官の知識と限界

 ただ、政務活動費の支出が適法かどうかを最終的に判断するのは裁判所です。

 裁判官は、政務活動費について詳しいかというと、決して、そのようなことはありません。政務活動費については素人です。裁判官によっては、初めて政務活動費返還請求訴訟の判決を書く、という人もあると思います。

 裁判官は、政務活動費のことについて詳しくないので、原告と被告から提出された主張や証拠、そして、過去の判例や文献に基づいて、政務活動費の充当が適法かどうかを判断する判決を書くことになるのです。

 そうすると、そのような政務活動費について詳しいとは言えない裁判官に対して、当該政務活動費としての支出が適法であることを理解してもらわなければならないということになります。

 そして、また、訴訟になっていない案件についても、最終的には、そのような裁判官が判断するのだということを念頭に置いて対応する必要があるということになります。

 そのようなことからすれば、政務活動費のことを一定程度は理解しており、裁判実務には精通している弁護士の記事は、議会事務局の皆様とは少し違った視点からお話しすることが出来て、そういう意味で少しはお役に立てるのではないかという思いで、今回、このような原稿を書かせて頂いています。

政務活動費の訴訟と公正な説明

 以前は政務調査費、現在は政務活動費となっていますが、政務調査費の古い判例を見ていると、「こんな使い方をするのか・・」「このような支出が、よく認められていたな・・」と思うことがよくあります。

 政務調査費が議員の第2の報酬だとして批判されるようになり、特に、兵庫県議会議員の号泣会見が世間の耳目を集め、一般の人でも政務活動費というものが議員に支出されているということが周知されるようになりました。

 不適切な政務活動費の支出があった場合には、当該議員だけでなく、議会事務局や自治体自体が強い非難を受けるようになっているように思います。

 そのようなことからも、最近では、以前のような明らかな不適切な政務活動費の支出は減少しているのではないかと思います。

 私が担当する政務活動費返還請求訴訟の内容を見ていても、「こんな使い方は、ダメでしょう」と一見して不適切と思うようなことはありません。

 議員の方も、不適切な使い方をして問題視されて新聞などで報道されると選挙に影響することになりますから、無理な使い方はされない方が多いのではないでしょうか。議会事務局としても、問題とされるような支出については、以前よりも、議員の方にアドバイスをしやすくなっているのではないでしょうか。

 ただ、議員や議会事務局が気を付けていても、法律上のルールには適合していないということで不適法な支出であると判断されることもあります。

 もし、政務活動費返還請求訴訟においては、裁判所から違法な支出であると判断されて、市民オンブズマンの請求が認められた場合には、石川県の場合、金額の大小にかかわらず、新聞やテレビで報道されてしまいます。

 そうすると、世間一般の方々は政務活動費について、前述の兵庫県議会議員の号泣会見のイメージがありますし、裁判所の具体的な判断の理由や内容まで理解することは出来ませんから、「政務活動費の返還を裁判所から命じられた」となると、「すごく頻繁に温泉旅館に行っていたのだろう」「政務活動費を使って遊び回っていたのだろう」と思われてしまうこともあるようです。

 私としては、内容や金額の如何に関わらず、裁判所から違法支出であると判断されるということは、現実の問題以上に議員の方の名誉を著しく傷つけてしまう可能性もありますし、必要以上に議会事務局が責められかねないことになるので、裁判所で金銭的な支払い命令がされる以上の影響があります。

 ですから、政務活動費の使い方が適切になされていると考えられる案件については、裁判所が判断を誤らないよう、裁判所に適切に主張立証をしていかねばなりません。

裁判官との連携:適法支出の保証

 ただ、前述のように、あくまで、政務活動費の支出が適法かどうかを判断するのは、政務活動費の実務を知らない裁判官です。

 そのような裁判官に、どうして当該政務活動費の支出をしたのか、どうして当該政務活動費の支出が問題ないのかを納得してもらえるよう、裁判官のレベルに併せて説明をする必要があり、それが、弁護士の役割だと思っています。

 裁判所で説明をする時には、裁判官の理解できる内容での説明が必要となるので、「実際は、こうです」「実務では、これが普通です」ということでは容易には分かってもらえず、独りよがりな主張にならないようにするため、弁護士が重要な役割を果たすのではないかと思っています。

 一般の方は、裁判官は、何でも知っていて、適切な判断をしてくれる存在だと思っている人が多いのですが、決して、そのようなことはありません。

 日本の裁判官は真面目で、優秀だと思います。賄賂などということは、私の知る限りでは考えられないことだと思います。

 ただ、いくら、そのような真面目で優秀な裁判官であったとしても、これまでに述べたような限界がありますので、その点に意識をしていく必要があります。

 そして、そのような裁判官が誤った判断をしないよう、適切に説明をしていかなければなりません。

政務活動費の活用と信頼の維持を実現するには?

 裁判所には、裁判所の独特の考え方やルールがありますから、そのような考え方やルールに沿った主張立証をして、裁判官に理解してもらうことが重要となります(どのような主張・立証方法が良いかについては、別の時にご説明をしたいと思います)。

 そうでないと、本当は有意義に適切に政務活動費が使用されているに、裁判官の誤解や理解不足によって、政務活動費が使えなくなったり、当該議員が必要以上に名誉を傷つけられるようなことになってしまうので、そのようなことにはならないよう、しっかりと対応しなければならないと思って、日々、訴訟案件に取り組んでいます。