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ファックスは投票OK、でも電子投票は×:ファックス好きな日本の現状からみえること
[Column]
コラム
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7月 22, 2024
コラム
政治情報学分野の視点から
ファックスは投票OK、でも電子投票は×:ファックス好きな日本の現状からみえること
ファックスは投票OK、でも電子投票は✖️
ファックス好きな日本の現状からみえること[/caption] 2010年11月、私は韓国が在外投票制度を導入するということで、韓国の国会議員会館に参考人として招致されました。日本の在外選挙についての説明をし終わり、質疑応答に入ったときに日本に留学経験のある国会議員から鋭い質問をされました(質問は流ちょうな日本語でした)。それは「なぜ日本はファックスで投票できるのに、電子投票や電子メール投票はできないのか」という質問でした。 ここでいうファックスによる投票とは、船員が船の上で行う洋上投票や南極観測隊の隊員が南極・昭和基地で行う南極投票を指しています。一方、電子投票はタッチパネルによる投票方法で日本では地方選挙で法制化されていますが、岐阜県可児市で生じたトラブル、通称「可児ショック」によって電子投票を行う自治体は右肩下がりの状況にありました。(2023年9月現在で、電子投票を実施している自治体はゼロ、ただし、つくば市がスーパーシティ特区で実施しようという動きはあります。)電子メール投票は、投票用紙のファイルを電子メールに添付して選挙管理委員会に送付する方式で海外では既に実用化されています。 私はこの質問に絶句しました。セキュリティ的に甘さのあるファックスで投票ができて、よりセキュリティ的に厳しい電子投票・電子メール投票ができないというのは、学術的に説明がつかないからです。この韓国での一件は、日本で電子投票が進まない理由を考えるだけではなく、日本人のデジタルに対する向き合い方を研究する大きなきっかけとなりました。
ファックスが好きな日本人
グローバルなビジネス環境でファックスを使っているという話は聞かなくなりました。ファックスはセキュリティに不安があり、情報漏洩リスクが高いからです。また誤送信するリスクも抱えています。それに大容量のデータを送ることはできません。しかし、手書き内容を簡便に送れるファックスは、デジタルが苦手な人であっても扱いやすい技術でした。日本で普及が進んだのはそうした手軽さからだったと思います。 ファックスの利用はご多分に漏れず、デジタル化が進んでいないところにまだ残っています。民間企業よりもお役所、お役所の中でも執行部よりも議会の方にファックスを利用する状況は残っています。 ここで、私が2022年に全国の市区町村の議会事務局に対して実施した郵送調査の結果(回収数1,516、回収率87.1%)をお見せしたいと思います。図は、ファックスの利用状況を議会事務局に聞いたものです。全体的に見ると、ファックスをもう使用していないと回答した地方議会が4分の1ほどあることに気づきます。図から判断するに、ファックスが市区町村の議会事務局から完全に消える日はまだまだ先のようです。 なお、デジタル化の進んでいない村の方がファックスを日常的に使っていないという結果は興味深いと思います。議員が少ないのでファックスを使わずに電話連絡等で済ましてしまえるということが影響しているのかもしれませんし、そもそも高齢の議員が多くファックスすら使わないのでやりとりがないのかもしれません。
「ファックスOK」から気づくこと
「日本人はファックスが好き」で片付けるのではなく、なぜ日本人がファックスを使用し続けるのか、今一度考えてみる必要があると思います。そこから、マイナンバーカードが普及しないことなどの原因も見えてくるかと思います。 ちょっと脱線しますが、携帯電話について考えてみましょう。日本は、戦前から電話線を引き、固定電話を使ってきました。そして携帯電話が登場、はじめて商用化された携帯電話がまるでショルダーバックのようだったことを覚えている読者の方もいるかもしれません。それが現在では、スマートフォンが主流になっています。ただ、高齢者の中にはいまだにガラケーすら持たない生活をしている方もおり、高齢者と若者の間でデジタル・ディバイドと呼ばれる格差が生じていることを知っている人も少なくないでしょう。 しかし、発展途上国は違います。有線電話の時代はなく、いきなり携帯電話の時代が到来し、お年寄りでもスマートフォンを使いこなします。そのため、日本のような世代間でのデジタル・ディバイドはあまり見られません。 すなわち、お年寄りだからデジタルを使いこなせないのではなく、「今まで使ってきたものをやめて新しい技術に乗り換えることは、新たに勉強しなければならないからたいへんだ、だから古いものを使い続ける」という発想になりやすい、ことが想像できます。別の言い方をすれば、セキュリティよりも新しい技術に対する「食わず嫌い」が、セキュリティが脆弱であってもファックスを使ってしまう根本にあるということになります。
マイナンバーカードが活用されない現状に応用してみると・・・
ファックスが使われる論理が分かれば、デジタル庁が「マイナンバーカードを使うと便利」と宣伝してもなかなか受け入れられない理由も見えてきます。ファックスの利用の場合、ファックスを使ってみて便利だと多くの人が実感してから、ファックスで住民票が取得できるような制度が後追い的にできたと記憶しています。 しかし、マイナンバーカードの場合、そうした体験なく、デジタル庁が「便利だから使ってください」と言っています。デジタルに普段触れていない人は、そもそもマイナンバーカードを使いたくないでしょうし、仮に使ってみて意外に面倒だと感じたら、「デジタル庁は便利だと言っていたけど、便利ではない」と思うでしょう。 私個人としてはマイナンバーカードの活用拡大を焦るがあまり、慣れるまでの時間を軽視したことはマイナスだったと思います。また、便利と宣伝しすぎると、便利ではないと感じる人は益々抵抗します。デジタルに対応できる人たちの感覚に寄せすぎたことがマイナスに作用したのでしょう。(もちろん、企業がシステム障害を起こし、信頼を失ったことも大きいかと思います) デジタルが得意な人たちは、一気にデジタル化を進めようとします。それは悪いことではありません。しかし、デジタルを急に進めればついていけない人が生まれます。前出の図ではありませんが、ファックスをいきなり辞めるのではなく移行期間を設け、その間は対応するといった配慮も求められるかと思います。 民間企業と異なり、行政や政治の情報システムはデジタルが使える人だけが使うのではなく、使えない人も使うことを前提に考える必要があります。その分、効率が悪いかもしれませんが、使えない人への配慮は欠かせないのです。
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