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地方議会のデジタル化:政治家を有権者の代理人として考えてみたら
[Column]
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8月 30, 2023
コラム
政治情報学分野の視点から
地方議会のデジタル化:政治家を有権者の代理人として考えてみたら
東北大学 大学院情報科学研究科
人間社会情報科学専攻 准教授
河村 和徳
政治家のことを私たち日本人は「先生」と敬称で呼ぶことが多いかと思います。ただ、私が専門の政治学の分野の中には、選挙で選ばれた政治家は有権者に雇われた「代理人」とみなす考え方もあります。 代理人と聞くと、多くの人がスポーツ選手の移籍で交渉する人がイメージすると思います。そこで、サッカー選手が海外のプロリーグに移籍しようとした場合を想定して、スポーツ選手と代理人の関係を考えてみましょう。そのサッカー選手はサッカーにおいては高い能力を有しています。しかし、海外の労働関係の法律のことはよくわかりませんし、契約交渉などをしている時間もありません。そこで海外への移籍に詳しく代理人と契約し、移籍交渉をしてもらうのです。 代理人は選手に雇われていますので、雇い主の期待に添うよう動くことが求められます。ただし、代理人も人の子ですから、海外のチームの移籍交渉に個人的な都合が入り込む余地があります。たとえば、選手側が契約金は安くて早く移籍したいと思っていたとしても、代理人としては成功報酬が安くなるのは嫌なので契約金をつり上げようとして交渉を長引かせてしまう、といったことも起こりえます。 もし代理人が雇い主の意に反した行動を採っていると気づいたら、雇い主はどういった行動に出るでしょう。まず、まず雇い主は、代理人に説明を求めます。そして、説明に納得しなかったら、代理人との契約を破棄し、新たに代理人を選任することになるでしょう。
雇い主たる有権者の代理人としての政治家
海外移籍を考えている選手と海外チームと移籍交渉をする代理人でイメージができたところで、雇い主を有権者、代理人を政治家に置き換えてみることにしましょう。有権者は政治に直接参加することもできないことはないですが、様々な制約もあり、選挙によって政治家を選出し、日々の政治的意思決定を政治家に任せています。これが間接民主制の考え方です。 ただ、有権者は政治家に白紙委任している訳ではありません。政治家が選挙で掲げた公約などを吟味して彼らを選んでいます。そのため、もし政治家が公約と違った政策を進めようとしたり、有権者からの信頼を損なわせるような不祥事を政治家が起こしたりした場合、有権者は政治家に対し説明を求め、負託を受けてその任についている政治家にはその要求に応える義務があります。言い換えると、代理人たる政治家は雇い主たる有権者に説明責任を負っているのです。説明をしないで雲隠れすることは言語道断ですし、もし政治家が納得がいく説明ができなかった場合、有権者は次の選挙で彼・彼女らを落選させることで代理人から退場させるのです。
監視をより容易にするデジタル
「代理人にふさわしくない、私利私欲に走る政治家を退場させればよい」、これは言うのは簡単ですが、誰がふさわしくないかを調べ、可視化することは容易ではありません。理由は2つあります。 1つは、「情報の非対称性」と呼ばれる状況があることです。通常、政治・行政分野に対する知識量は、相対的に代理人である政治家の方が上で、雇い主である有権者が下である場合が基本です。知識量が少ない有権者が政治家を吟味するには、知識量を増やし、ふさわしい政治家は誰か、判別できるようにならなければなりません。 もう1つは、政治家の行動を吟味するためには、分析可能とする多くの情報が必要、という点です。政治家の資産効果などの制度があるのは、24時間政治家の行動を追跡することは難しいので、情報を出すことを促す制度をつくっているためです。また報道の自由が担保されているのも、同様の理由からと言えます。 代理人としてふさわしくない政治家かどうかを判別するにあたり、デジタル技術の活用は非常に有効な手段と考えられます。たとえば、議会中に居眠りをしている議員がいたとしましょう。かつては議場に足を運ばないとそういった議員を見つけることはできませんでした。それに、写真やビデオ撮影が禁止されているような場合では、決定的な証拠を押さえることも困難です。しかし、最近、議会の様子をYouTubeにアップするなどネット公開しているところが増えています。ネット公開されれば居眠りをしているかはわかりますし、AIに学習させれば自動で居眠りをしている議員を炙り出すことも可能です。 不正利用が後を絶たない政務活動費に関しても、デジタルを導入すれば、より透明性の高い環境を作り出すことができます。政務活動費が潤沢にある議会では、手書きの紙の領収書をまとめるだけでも一苦労、と言われます。更に、それをチェックするマスコミの人々もたいへんで、「バインドされた領収書の束を見ただけで気が失せる」という記者もいるほどです。情報を公開しているけど、物理的にチェックが難しいのが現状です。しかし、政務活動費の支払いを原則カード払いにし、カード会社が発行した明細のデジタルデータで公開したらどうでしょう。そして、利用が適切か判断できるようAIに学習させれば、不適切な利用をチェックする手間が省け、そうした仕組みを採用した議会は、政務活動費を適切に使っている議会と有権者にアピールすることができるでしょう。 関連して、富山市で発覚した政務活動費の不適切利用問題が全国を賑わせたとき、領収書のインターネット公開を選択する議会がありました。情報公開をすることは、議会のやる気を見せる効果的な手法です。しかし、技術の進歩によって公開だけでは十分ではない時代が到来しています。「とりあえず情報を公開すればよい」という発想からで留まるのではなく、「デジタルを活用して不正利用がチェックしやすくなっていますよ」ともう一歩踏み込んだ改革をした方が、住民から高い評価が得られやすいと思われます。
地方議会のデジタル化は「明治以来の大改革」
新型コロナ禍によって、紙と対面を基本とする地方議会は非常に困った状態に陥りました。議場に集まれば「密」になり感染リスクが高まるが、議会を開かなければ議会の存在意義が疑われます。議員が感染者・濃厚接触者になったことで自然閉会した議会も出、出席者を制限して定足数ギリギリで議会を行ったというところもありました。しかし、これらの対応はまずい対応だったと思います。住民の負託を受けた議員で構成される議会としては、困難なときであっても議員が発言する場を確保すべきですし、もしそうした環境ができていないのであれば、それができる環境づくりに取り組むべきだと思います。 実際、コロナ禍では、議会の中には、(少数ですが)委員会をオンラインで行ったり、視察や参考人招致をオンラインで行ったりするなど、挑戦的な取り組みをするところが現れました。全国三議長会(全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村議会議長会)もデジタル技術の1つであるオンライン技術の活用についての検討を行っています。 2021年1月、全国都道府県議会議長会は都道府県議会デジタル化専門委員会の設置し、私は委員会の座長として検討に参加し、専門委員会は既に4つの報告書を出しています(
http://www.gichokai.gr.jp/kenkyu/index.html
)。それらには、地方議会でデジタルを活用することにはペーパーレス化を実現し効率的な議会づくりに寄与するという側面だけではなく、デジタルを使うことは透明性が高く開かれた議会づくりに資する側面があることも書かれています。 デジタルを活用するというのは、明治以来続いてきた、紙と対面によるアナログ時代からの転換という側面があります。そうした意味で、デジタル化を地方議会で進めることは、明治以来の大改革と言えるのかもしれません。
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