[Column]
コラム
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11月 15, 2023

政務活動費誕生までの変遷と求められる透明性

株式会社廣瀬行政研究所
代表取締役 廣瀬 和彦

 私は20年以上にわたり全国市議会議長会で議会運営や法制執務を主とした執務を行ってまいり、地方議会にかかる地方自治法の改正やそれに伴う会議規則や委員会条例の改正、政務活動費の条例等の制定等の実務に多く携わってきました。 その一方で、慶應義塾大学大学院法学研究科博士前期課程で、計量分析による議員定数、議員報酬に対する分析を主たる研究とし、東北大学大学院法学研究科博士後期課程では、イギリスと日本における行政法について比較法学に基づき、基礎的自治体における議会制度・運営の比較研究をしております。 なお、現在は株式会社廣瀬行政研究所において代表取締役を務める傍ら、明治大学公共政策大学院等の講師を務めており、地方議会議員への数多くの研修やコンサルティング、地方議会への興味を有する院生等の教育にかかわっております。 また、Q&A議会運営ハンドブックや政務調査費ハンドブック等の地方議会に関する様々な書籍を執筆し、議員NAVIにおいて現在、「議会運営のQ&A」や「判例から読み解く政務活動費の実務」を連載しており、地方議会に関する様々な解釈や情報を発信しています。さらに、「わたしたちのくらしと地方議会」という書籍を監修し、主権者教育にも力を注いでおります。

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廣瀬和彦

「会派調査交付金から政務活動費までの変遷と背景」

さて、行政法の1つである地方自治法により、同法100条14項から16項に規定された政務活動費は、その前身である政務調査費の時代並びにさらに政務調査費の前身である会派に対する調査交付金等の時代から少なからず携わってまいりました。 政務調査費の前身である会派に対する調査交付金は、費用弁償では賄いきれない日々の議員活動に対する補助を目途とするなかで、議会の会派という任意団体に対して支給されていたものでした。しかし、時代が昭和から平成に移る中で、バブルも崩壊し、地方財政が厳しさを増していく中、公費である会派に対する調査交付金の支出が飲食代や遊興費等に対して多額に支出されていたことが徐々に判明し、住民による当該調査交付金の返還請求を求める裁判が起き始めるようになりました。 当初は裁判所も会派への調査交付金支出に対して、会派側によった緩やかな判決を出しておりましたが、住民やマスコミの批判が徐々に強まる中、地方議会としては長の政治的判断により支出される補助金より、制度として議会に付与される政務調査費としての確立が望まれるようになりました。 そこで都道府県議長会をはじめとする議会三団体が国に対して、政務調査委費の制度確立を要望し、国会において議員提案により全会一致で可決されたのが政務調査費です。 閣法でなく議員立法により提案、成立した制度という珍しいものであったのは、当時の自治省が会派に対する調査交付金の状況において極めて不適切な支出が多かった事実を勘案して、制度としての政務調査費の創設に懐疑的であったと推察されます。何はともあれ、これにより各地方議会では政務調査費の制度創設により、会派又は議員に対して政務調査費として交付する法的裏付けができたことにより、安心して今まで通りの支出を行えると思っておりました。 しかし、ここにこそ落とし穴がありました。政務調査費という制度になったことにより、条例や規則でその使途をはじめとする規定を設けたことにより、補助金だった会派に対する調査交付金のような抽象的な規定と異なり、支出に対して厳格化が求められることとなってしまったのです。 そのため、会派に対する調査交付金の時と同様に、飲食費や遊興費に政務調査費を使用していた会派や議員は、判決により返還命令が裁判所より多数出されることとなり、大変な問題となりました。 当時、政務調査費についての条例は、都道府県議長会をはじめとする議会三団体でモデル例を策定することとなっておりましたが、その策定における会議の際、各地方議会の事務局より、政務調査費の支出には、原則事務局が関わり合いを持たないような条文として欲しいという要望がありました。 これは会派に対する調査交付金が政務調査費に変更となったことにより、政務調査費の支出等に伴う収支報告書の提出やそれにかかわる膨大な事務処理、万が一、政務調査費における返還訴訟になったときに、議会事務局がその実質的な被告として裁判書類の作成等の準備にできるだけかかわりたくないという気持ちが強かったものと思われます。政務調査費が交付され、支出した会派又は議員自らが自身でもって責任をもって処理すべきものと考えられたからです。 しかし、その危惧が現実になる中で、政務調査費の支出については数多くの裁判が提起され、多くが返還命令が下るという厳しい現実を突きつけられていきます。 もともとは、政務調査費も国会における立法事務費と同様、議員としての良識にゆだね、支出に当たっての政治的判断に過度な縛りをかけるべきではないとの考えから、領収書の添付を義務付けておらず、また最高裁の判例においても、政務調査費の支出にかかる領収書や視察報告書の第三者への開示義務がないとの判断が下されていました。しかし、度重なる政務調査費の支出の違法が明るみになる中で、多くの議会で政務調査費に関する領収書を添付せざるを得なくなってきました。

使途の透明化から、増える事務負担

そんな中、判例によって実質的に使途が狭くなってしまった政務調査費の支出の範囲を少しでも拡大しようとの趣旨のもと、政務調査費から政務活動費への制度の改正要望がなされ改正が行われましたが、その際には、地方自治法において、これまでの裁判等の経緯を踏まえ、議長による政務活動費への使途の透明性の努力義務規定が規定されることとなりました。 これにより、議会の補佐機関で議長の指揮命令権に従う義務のある議会事務局は実質的に、政務活動費への支出のチェックをする必要が生じることとなりました。 ただ、当初はかなり政務調査費の使途から逸脱・乱用となっていた支出であった政務調査費も、多くの判例の判決状況が明らかになるにつれて、現在の改正された政務活動費の支出においては以前とはかなり異なり、適正な支出が多くみられるようになっております。 その一方で、議会事務局の政務活動費にかかる事務の負担は、制定当初の政務調査費における議会事務局の事務量と比べて飛躍的に増えていることも事実です。そのためには、事務手続きをできるだけ簡略化し、その分を政務活動費の適正な支出判断のための情報収集等の業務に振り分ける必要があります。 なぜなら政務活動費は、5~10年前とは多くの部分で判決が180度変更となったり、大きな判例解釈の転換がなされているからです。 私も政務活動費にかかる判例の研究を今現在も行っており、多くの地方議会関係者にできるだけ適正な支出に当たっての判例を踏まえた判断の情報を提供したいと考えております。 今後とも政務活動費の制定にかかわった者として、微力ではありますが適正な政務活動費の支出の研究や情報発信を通して地方議会の活性化に役立てるよう尽力してまいりたいと思います。